To parents
「息子さんには、知的な遅れがあります」。
23年前、医師からそう告げられたとき、目の前が真っ暗になりました。
生後6ヶ月で「何かほかの子と違う」と思い始め、1歳で言葉の遅れを感じ、1歳半には、覚えた言葉がすべて消えてしまったわが子。2歳のとき、検査によって発達障害があると分かったとき、専業主婦だった私は、なすすべもなく、泣きじゃくるわが子とともに、ただ涙に暮れるしかありませんでした。
あのころ、発達障害の子どもを持つお母さんたちは、孤独と戦いながら、同じお母さんたちと「つながりたい」と強く望んでいました。私もそうでした。気持ちを分かってほしい、わが子の様子について情報交換したい、障害を乗り越える方法があるなら知りたい。そんな思いでいっぱいだったことを覚えています。
発達障害は、コミュニケーションが難しく、物事や人の気持ちを「想像」できない障害だと思います。自分の気持ちをうまく伝えることもできないため、その不安やストレスから、暴れたり、非常識な行動をとったり、攻撃的になったりすることがあります。
自閉症の私の息子も、気持ちが伝わらないもどかしさから、ガラスを割ったり、池に飛び込んだり、自分の頭をボコボコになぐったり…。「なんで分かってくれないの!」という心の叫びを、自分や周囲を傷つけるという行動で示してしまうのです。家の中はめちゃくちゃ、救急車だって何度呼んだか知れない。気の休まる時間すらない日々でした。
でも、そんな毎日が変わる日がやってきました。そのきっかけとなったのは、絵カードによるコミュニケーション方法との出会いです。絵カードを使って「何を、どんな順番で、どうしてほしい」という想いを組み立てることで、発達障害の子どもとうまくコミュニケーションできることが分かりました。
同じ境遇のお母さんたちと集まり、自宅で月2回の勉強会を始めました。1人増え2人増え、気がつけば100人近いお母さんたちが集まり、勉強会に参加していました。そして息子が小学5年生のとき、絵カードを使ったコミュニケーションの本格的なトレーニングを受けました。
このときから、息子は驚くほど変わっていったのです。絵カードによって、自分の言いたいことが伝わるうれしさ、分かってもらえる喜びを知った息子は、以前とは比べものにならないほど落ち着きました。問題行動がピタッとやみ、険しかった表情が生き生きとした表情に変わり、体中から生きようとする意欲がみなぎるようになりました。
私は思いました。自分の気持ちが伝わるということ、相手に分かってもらえるということ、たくさんの人とつながりながら生きていけるということ。人間にとってこれほど幸せなことはない。そのことを息子は知ったし、私自身も息子を通して教えられました。
NPO法人発達障害サポートセンターピュアを立ち上げたのも、伝わる喜び、分かり合えるうれしさ、つながり合って生きる幸せを、もっともっと世の中に広げたかったからです。一人ぼっちで発達障害に苦しむ子どもたち、孤独にがんばる保護者のみなさんに、心からの「安心」を感じてほしい。そして、生きる「希望」を手にしてほしい。その強い願いが、主婦だった私をここまで連れてきてくれました。
ピュアには、ほかではあまり見られない大きな特徴があります。子どもから大人へ、大人から社会人へという一連のプロセスを途切れることなくサポートする「一貫支援」を実践しているところです。幼児期だけ、成人期だけという分断された支援ではなく、その人のライフステージを切れ目なく支援する仕組みと手法を育てていることが、ピュアの最大の強みであり、めざし続ける姿です。
発達障害の方と地域と社会がつながりあう世の中。そんな幸せな世の中をつくるために、ピュアはあります。
ピュアのぬくもりが、たくさんの人に届きますように。